実践するコンクリート コンクリートの防水と補修について

コンクリートの表面仕上げについて ニチエー吉田に聞く

打放しコンクリートの宿命

 打放しコンクリートをきれいにつくるためには様々なノウハウがある。生コンの調合に始まり、型枠の精度、上手な打設と続く。これらはその手のノウハウ本に書かれているのでそちらに譲るとして、その手の本にはあまり丁寧には紹介されていないコンクリートの打設脱型後の状態から行わなければならない二つの作業について記してみたい。

 脱型後の作業とは? そのひとつは補修作業である。完璧を期したコンクリートの打設にもかかわらず、脱型後にジャンカやコールドジョイント等の補修を必要とする部分をゼロにはできない。そんなことは百も承知だから打つまでが勝負ではないかという話もある。しかし、きちんと打てたと思っているのは設計者だけというのはあるゼネコンの人から聞いた話。不具合は設計者が来るまでに補修するか、できない時は上手に隠しておくのだそうだ。果たしてその実体はよく分からない。打設までに全精力を傾けるというのも正しい。一方で現代の建築生産の施工管理体制の標準的レベルからすると、補修も打放しコンクリートの仕上げ工程のひとつというのもどうも正しい。

 林昌二氏はこの辺のコンクリート施工に対する設計者と現場のずれについてこう言う。「どうもコンクリートというのは不思議なことが多いですね。見積もりの中に頼んでもいないのに補修工事とかはつり工事とかが入っている。クライアントはどうしてそれにお金を払わなければならないのか疑問を感じますよねえ」。しかし見積もりに入っていればまだ良心的である。設計のスペックにもない、見積もり項目にもない。でも実際はそのお金が入っていて人知れず(設計者もクライアントも知らぬ内に)その工事が行われるというケースはよくある。

 さてそれでは補修が一体どれほどの仕上げの差を生むのかという点だが、打放しコンクリートは本実型枠はもとより、昨今一般的な塗装合板の型枠を用いても打ちあがりの表面には微妙な型枠のテクスチャーが刻印されていく。よって、その表面に補修箇所が発生し、そこをモルタルで塗りこんでいくとこのテクスチャーが失われてしまうのである。もしテクスチャーの一貫性にこだわるとすれば、このテクスチャーを復刻する必要が出てくる。この技術の高低が打放し仕上げの優劣を左右する。第二国立劇場の工事中に現場見学をした人の話ではあの美しい杉本実型枠の柱が何人もの職人の筆によって描かれていたとのことである。

 さて脱型後に行う2番目の作業とは? それはコンクリートの躯体としての性能を維持していくための防水剤の塗布である(ここで防水剤とは、撥水剤から耐侯性塗料を含め打放しコンクリート面の保護として塗るものすべての総称として用いる)。防水剤はコンクリート寿命を示す一般的な指標であるコンクリートの中性化を食い止めるために必要欠くベからざるものであり、建築家は何がしかの防水剤を選び打放しに塗布せざるを得ない。設計者は言うかもしれない。「それでは性能の良いものをご自由にお塗り下さい」と。しかしことはそう簡単ではない。それはこの防水剤の選択が打放しの表面の質感を大きく変化させるからである。

 例えば、槇事務所の例をOBの高田典男氏は当時を振り返りこう言う。「横浜市立並木第一小学校の場合は、打放し用の塗装合板を型枠に使い、型枠をはずした後直接アクリルクリアを塗布しました。見てわかるとおり、コンクリートの打放しの程度がもろに仕上げの程度に表れます。若干でも補修をした部分はアクリルクリアの吸収が変わってしまうため色違いが極端に出ます。また、コンクリート面自体の吸収も大きいため、全体が濡れ色となり、しかも表面は光沢があります。しかしアクリルクリアの耐侯性が良くないので、表面の光沢は比較的早い時期になくなってしまいます。そこで、岩崎美術館、槇自邸、横浜市立川和中学校、東京体育館などでは、打放し面の濡れ色を回避するための方法をとりました。本実型枠(荒鉋仕上げ)または打放し用塗装合板を型枠に使い、型枠をはずした後に白色のシーラー(浸透調整用)を塗り、それが半乾きの時にウェスで拭き取ります。このときに、打放しの目に白色の塗料が残ります。それが乾燥してから、アクリルクリアを塗布します。コンクリート面の濡れ色はまったくなくなり非常にきれいな仕上がりとなります。また、補修した部分もあまり目立ちません。ただし、最終のコーティングはやはりアクリルクリアですので耐侯性は変わりません」。その後高田氏自身は中野坂上の再開発で耐侯性を考慮してフッ素を選択している。このように打放しを美しく仕上げている事務所は防水剤についてそれなりの試行錯誤を重ねているということである。

 また宮崎浩氏の仕上げは撥水材しか施していないようである。これはぼくの経験から言えば撥水剤だけという仕様が打放しを最も美しく見せるからであろう。耐侯性の皮膜を作らないからコンクリートが最もコンクリートらしくさらりと見えるのである。もちろん撥水剤だけの場合は耐侯性の持続力が弱いのでメンテナンスを確実に行っていかなければならないのは言うまでも無いが、美しいコンクリートへのこだわりは、クライアントをも説得する力となっているのであろう。

 このような実例を見ると分かる。これら二つの作業は打放しコンクリートの本質論とはなりにくいが、必然的な作業として考えざるを得ないということである。言ってみれば打放しコンクリートの仕上げ工程として位置付けざるを得ないのであろう。

 さて打放しに付きまとうこれら二つの宿命、補修と防水剤、こうしたコンクリートの表面の美しさを左右する問題に40年間こだわり続けてきた人がいる。吉田晃67歳。ニチエー吉田(株)の社長を勤める。

 打放しの病を経験した人ならば少なからず、この医者の厄介になっているか厄介にならずともその名前ぐらいは皆知っているものと思う。ぼくもそんな一人だった。興味を持って社長にお電話してみると、「幾らか書いたものがあるので送りましょう」と言ってくれた。次の日に1969年から1995年までに『建築技術』『建築知識』などに書かれた記事24編の抜き刷りのコピーがファイルして送られてきた。そしてその全編を一気に読んでみた。実に地道に一歩一歩という堅実さである。というのは時代順に読んでいくと、書いてある内容が殆ど変わらないのである。正確に言うと、少しずつ改良が加えられ変化しているのだが、ドラスティックに変化していることは無いのである。それまでやってきたことを繰り返しながら、うまくいかないことを少しずつ改良して現在に至っているということがよく分かる。

 さて再度言うまでもないかもしれないが、打放しコンクリートに関する吉田工法の特筆すべきことは打ち上がりの不具合であるジャンカやコールドジョイント等を消す技術と耐侯性防水材をむらなく塗る技術である。

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